88. ながれ    筑紫歌都子 作曲

 秋の色もようやく深みゆく奥日光のいささ小川のせせらぎから、早瀬や瀧瀬を通り
 中禅寺湖を経てついに華厳の瀧に落ちるまでの印象を女性的な感覚で作曲したのである。
 筝は水の流れを美しい旋律で心憎いまで描写し、
 尺八に周囲の日本的な風景や小鳥の音などを表している





88-0.   夏夢三景   川崎絵都夫 作曲

この曲は三楽章からなり、夏の景色に託した心象風景の表現として構成されています。

第一楽章 夏木立
夏の暑さの中、凛とした姿形で日差しを受け止め、葉を茂らせ、生き物たちのためには日陰
を作り、樹液を差し出す。そんな木々の悠然とした姿を表現して下さい。

第二楽章 蛍ひとつ
蒸し暑く靄のかかった夕暮れ時に、涼やかな光を点し儚げに飛び交う「蛍」。無数の蛍が美しく
交錯し、こちらには仲間からはぐれて頼りなさげに飛ぶ蛍がひとつ。

第三楽章 夕映え
少しずつ黄昏てゆく夏の夕方。空は徐々に紅色に染まって行き、真っ赤に燃えながら沈んでいく
太陽が、カーテンのように昼と夜の境目を降ろして行きます。ドリア旋法による音階が特徴的な
勇壮な楽章です。

〔編成〕:箏T・箏U・17絃・三絃・琵琶・尺八T・尺八U・短管・打楽器
〔演奏者の感想〕:





88-1.   浪花絵話   大嶽和久 作曲

その昔、浪花の検校達は気の合う仲間と手慣れた曲を持ち寄り、遅くまで
友好に耽ったと言う。
洒落心に富んだ彼らはそれらの曲を素材に物語を展開させる。
そして当時流行っていた近松や西鶴などが地歌の中で見事に蘇える。
                     1991年10月 作曲
[編成] 筝・三絃・17絃
[演奏者の感想] 





88-1A. 七 小 町      光崎検校作曲
  
小野小町の生涯を 草子洗・鸚鵡・関寺・卒塔婆・清水・通い・雨乞いの
七つの時期に分け、七小町と名づけられた曲です。小町は仁明帝の時代に、
小野篁の同族の一人が奥州に滞在中に出来た娘といわれています。
非常に文才に富み 且つ絶世の美人でもありました。
後に宮廷に召し出されましたが 当時絶大なる力を持っていた藤原氏の嫌忌
にふれ、ついに宮中を退出して一生を不遇の裡に終わったそうです。

〔編成〕:箏・三絃・尺八
〔演奏者の感想〕:20分という長い演奏ですが良い勉強になりました。





88-2 難波獅子   継橋検校作曲

おめでたい和歌三首を集めて、作曲したもので祝賀の時などに演奏するのに適した
曲です。初めの唄は『君が代は 千代に八千代にさざれ石の…』と始まります。
我が君の代が、限りなく栄えまします事を祝ったもので、小さな石が大きな岩と
なって、苔のはえるまで千年も万年も繁盛であるとの意味です。
二番目の唄は作者不明ですが『たちならぶ やつほの椿八重桜 ともに八千代のと
にあはまし』とやはりめでたい歌詞です。三番目の唄は仁徳天皇の作です。
『高き屋に のぼりて見ればけむり立つ 民のかまどは賑わいけり』民が潤ってい
るという事は国が栄えているということです。いつまでも栄ある国であって欲しい
と願って演奏いたします。

〔編成〕筝・三絃・尺八
〔演奏者の感想〕古典らしい味わいのある曲です。





 89. 浪花の恋の物語   田端洋風 作曲

 佐藤イチ氏の短歌を導入部として、文楽の曾根崎心中の歌詞につなげたものです。
 曾根崎心中は近松門左衛門の代表作品ですが、粗筋をご紹介しておきます。
 《天満屋の段》
 醤油問屋の手代、徳兵衛は、天満屋のお初と馴染みを重ね、主人の縁者との縁談を断り、
 その上、友達の油屋、九平次に金をだまし取られ自殺を決意します。
 その夜、別れに天満屋に来た徳兵衛を、お初は打ち掛けの裾に隠し、
 足で徳兵衛の覚悟を確かめ、自分も死ぬ決心をするのです。
 《天神の森の段》
 その夜更けに、二人は曾根崎の天神の森へ、死出の旅路を急ぎます。
 帯で互いをくくり合わせて、徳兵衛は脇差しで、お初の喉元をひと突きに…………
 そしてすぐさま自分もその後を追います。





 89-1. 平城山スケルツォ  江戸信吾 作曲

 作曲者はスケルツォシリーズの四作目として、唱歌の平城山(ならやま)を取り
 上げました。スケルツォとは快速調です。
 題材としては一見スケルツォにはそぐわないようですが、作詞の中に秘めたる
 激しさを感じ、そこの部分をふくらませました。
 しみじみとした趣き深い雰囲気を最大限に尊重しつつ、スケルツォな感じを出
 せるように心がけ、静かな激しさと動的な激しさを感じてもらいたいと作曲者
 は語ります。

 〔編成〕:箏T・箏U・十七絃・尺八





 90. 南国秘話    水野利彦 作曲

 灼熱の太陽。鬱蒼と茂る森。ここは南国、神の国。
 ディフォルメされた古い石像から、太古の祈りが聞こえてくる。
 語り部達の長い物語は、空想の世界に引き込んでしまう。
 それは、神から人間へと続く長い長い物語。無数の人々が
 喜びや悲しみの歌をうたってきたのであろう。





90-1.    日本の詩   水野利彦 作曲

編曲というのは、既成のメロディという制約された中で表現しなければならないという点で、
オリジナル曲よりも窮屈なところがあり、この作品は又、洋楽器のやわらかくて厚みのある
アレンジが定番となっているような愛唱歌を和楽器で編曲するということで、苦労しました。
構成としては、全体を流れる印象的なモチーフが最初に提示され、その後オムニバス的に
なつかしいメロディが浮かび上がっては消えてゆく形になっています。
技術的には高度にかかれており、とくに尺八は、すぐれたテクニックと表現力が要求される
曲になっています。
本来、小編成の作品ですが、ある程度大きい編成でも効果が上がるようにソロ部と合奏部を
表記しました。                     
                              1995年8月 作曲
[編成] 筝T・筝U・17絃・尺八
[演奏者の感想] 皆が知っている曲なので邦楽器で表現しきる難しさはある。





 91. 日本民謡集2    佐藤義久 作曲

 この曲は日本の有名な民謡を集めたものです。
 長野県民謡「木曽節」ではじまり、
 熊本県民謡「おてもやん」宮崎県民謡「稗搗節」高知県民謡「よさこい節」と続きます。
 そして最後に群馬県民謡「八木節」で楽しく締めくくります。
 のどかな曲、愉快な曲、それぞれの曲に特徴があって
 全体に変化に富んだ大変明るい曲調になっています。





91-1 ノスタルジア    菊重精峰作曲

器楽曲の二重奏として作られた作品ですが、なぜか言葉としても残しておきたいと
いう気持ちになり、作者は詩を書いてみました。
 
過去ありて現在(いま)があり  現在(いま)生きて未来へと続く
  寿命(いのち)半ば燃焼し   ノスタルジーをおぼえる
 故郷を(ふるさと)懐かしみ  少年時代を懐かしむ  
過去ありて現在(いま)があり   現在(いま)生きて未来へと続く

17絃の低く深い音色と尺八の澄んだ高音、そして渋みのある息づかいが
協和し、人間の五臓六腑を刺激し、優しい気持ちを思い出させてくれます。
 ノスタルジーとは郷愁です。みんなの心にある故郷への想い、思うだけで
 懐かしみを感じる不思議な言葉です。

〔編成〕17絃・尺八
〔演奏者の感想〕尺八も17絃もソロの部分で自分の想いを込めやすい曲です。


 現代曲は各々の作曲者の解説から引用させて頂きました。
 また、古曲は「山田・生田流 筝唄全解 今井道郎著 武蔵野書院刊」を
 参考にさせて頂きました。