91-0. 波 動   菊重精峰作曲

曲は尺八と三絃の掛け合いによる16分音符の小さな波で始まり、その後
お互いの音の波で曲が形成されていきます。
尺八・三絃にそれぞれ独奏部分を設けておりますが、合奏部分から自然な
音の流れで独奏になり、またとぎれる事なく合奏へと変わることも意識しながら
最後はお互いトリル、即ち細かい波で締めくくりました。

空間に存在する見えない波や空気の流れが音と音の「間」を創造し、そこに細かい
パッセージを入れる事で色んな波が形成されます。

尺八と三絃が繰り広げる音の波をお楽しみください。





91-1.   華(はな)   沢井忠夫作曲

美しいもの、華やかなものがそこにある時、人々の心はなごみ、安堵と共に豊かさが満ちる。
曲はひそやかな波紋を描きながら始まり、やがて流れに乗って、華やかな飛翔を展開する。
題名の華が表しているように作品全体が華やかな雰囲気で終始しています。
技法的にはかなり難しいと言えますが、曲の途中にある拍節感の無い、箏と尺八の対話と
言った部分や、かなり無理とも言える転調を敢えて採り入れて、より一層華やかな雰囲気
を与えています。

〔編成〕:箏・尺八
〔演奏者の感想〕:





 91-2  花 扇      森岡 章 作曲

  筝二部・17絃・三絃・尺八の五重奏の曲です。曲の始まりは元禄花見踊りを
 連想させるような旋律で、華やかな雰囲気を作っています。
 テンポはそう速くは無いのですが、16分音符を使うことで軽快な曲となっています。

 〔編成〕上記
 〔演奏者の感想〕16音符部分で早くならないよう、注意が必要な曲です。





91-3.   花笠スケルッオ  江戸信吾作曲

この曲は山形の民謡、花笠踊りをスケルツォにしたものです。
スケルツォとは軽快で技巧的な三拍子の器楽曲ことです。
意味は日本語訳では『諧謔曲』になり難しく聞こえますが、
イタリア語では冗談、滑稽、ユーモアだそうです。
原曲の華やかさとノリをいかしつつ、情緒感を大切に作られています。
作曲者のスケルツォ六曲目の作品でシリーズの完結作となっています。





 92. 花さき山      宮田耕八郎 作曲

 お話も絵もとても美しい、作 斉藤隆介・絵 滝平二郎の『絵ものがたり・花さき山』を
 特に子供に紹介したいと思ってこの曲は作られました。
 人間の持つ優しい心が咲かす花。それはどんな花よりも美しく、
 そして命をかけた行いは山を生みだすそうです。
 この物語は、人の優しい心・力強い意志のもつパワ−の大きさを教えています。
 皆さんも花さき山に、自分の花をいっぱい咲かせてください。





 93. 花紅葉      宮城道雄 作曲

 [歌詞]
 さくらさくら 都の花はあでやかに  山の緑に まじりては
 その色更に うるわしく  やよいに香う 花こそは
 さながら人の 盛りなれ  花を見る日は 短きも 
 風に従い 雪と散り  川に浮かべる 花びらの
 行へもたのし 水のまにまに





 94. 早月の清流    石垣征山 作曲

 早月川は、富山県魚津市と滑川市の境を流れる全国屈指の急流河川である。
 北アルプス剣岳に源をもち、万年雪の滴を集めて流れるところから、
 その水は年中冷たい。
 歴史的にも古い河川で万葉の歌人、大伴家持の歌にもその名が出てくる。
 幼き頃、ここで「川遊び」したことや、故郷に帰るときに渡る早月川には、
 個人的ではあるが特別なおもいがある。
 そんな思いを筝と尺八の二重奏曲としてまとめてみた。 1987年5月作曲





 95. 春うらら          川崎絵都夫 作曲

 始めに出てくる尺八のソロをテーマにして、それを元にした変奏曲が続きます。
 朗々とした部分と速い部分の対比が印象的です。
 おおらかに旋律を吹く尺八と明るく華やかな箏で、春の麗らかな感じが印象的です。





95-1.   遥かなるアスガルトへ  江戸信吾 作曲 

この曲は「ビフロストの橋へ」の続編として書いたものである。
“アスガルト”とは北欧の神話に出てくる神々の住む夢の国のことで、
ビフロストを渡るとその地に行けると言われている。
遥かなる夢の国を目指す者達への賛歌とした。
                       2004年改訂
[編成] 筝T・筝U・17絃・尺八
[演奏者の感想] それぞれのパートの手が細かいので同じ動きを続けるのが難しい。





95-11. 遥かなる大雪   国澤秀一作曲

 北海道 釧路市に生まれた作曲者にとって北の大地は創造の大地でもあるようです。

 果てしなくつづく山脈   悠久の流れに
 気高さを失うことなく   静かに時間は過ぎて行く
 大雪の神々よ   永遠であれ

と作曲者は歌います。





 95-1  遥かなりみちのく路     野村正峰 作曲

  私の歩いた“みちのく”は、東北全土からすれば、
 ほんの垣間見た程度ですが、特に印象に残った四つの場所を四季にわけて
 点描的に歌いあげてみました。
 津軽、下北、裏日本、まだまだ歩いてみていない所の多い“みちのく”ですが、
 いつの日かまた訪ねる日あらば、それらも加えた、交響詩「みちのく」に
 発展させたい……という夢も抱きつつ。

 〔編成〕筝、尺八
 〔演奏者の感想〕そんなに難しくない曲です。





 96. 春の海      宮城道雄 作曲

 この曲は勅題「海邊の巖」に因みて作曲されたもので長閑な春の海の感じ、
 かもめの飛び交うさまを現した曲です。
 これはもと箏尺八曲として作曲され吉田晴風氏の尺八、宮城道雄氏の箏伴奏で
 ビクターレコード第一三一〇六番に見事に原曲のまま吹込まれています。
 昭和七年世界的バイオリニスト・シュメー女史が純日本音楽を聴きたいと
 宮城氏に懇望され宮城氏の演奏された曲の中で、この「春の海」が
 特に気に入りわざわざ楽譜を望れバイオリン独奏曲に編曲されて
 宮城氏と共に公演され、絶大の喝采を博した曲です。
 またこの曲は、世界的テノール藤原義江氏の希望にて声楽曲として
 発表された時もあります。
 このようにシュメー女史・藤原義江氏により世界の絶賛を博することなり、
 名曲として今もなお演奏されています。





 97. 春の海幻想          牧野由多可作曲

 宮城道雄の『春の海』については、いまさら何も言うことはない。
 この稀有の作品は昭和の初期、突如台頭した新日本音楽の中でも、洋楽の美点と
 (主として形式感)と日本音楽の音感とが、最もよく調和した稀にみる例なのだから。
 作曲者はこの作品と不思議な縁があり、かって二回ほど機会があって編曲したことがある。
 一度はオ−ケストラ、もう一つは邦楽器による四重奏である。
 もともとこの曲は、二重奏として万全に作曲されており、
 オ−ケストラへの編曲はちがう世界が開くからよいとしても、
 同種の楽器による四重奏などは、むしろこの曲のもつ繊細な持ち味、
 線の動きを失わせ、いわゆる大味なものとなってしまうことを経験していた。
 つまりこの曲を原曲のまま同じ邦楽器で拡大編曲することは、
 却って生彩をかくことにつながるものである。そこで今回は、
 箏独奏と尺八をソリストとして、合奏部との協奏の形をとり、
 これだけの編成を使う必然のようなものを、まず曲自体に持たせるようにして
 この点を是正してみたようだ。
 つまり原曲に、はっきりと手を加え発展させ大編成でなければ現わし得ぬ味を、
 まず曲そのものに与えてみたのである。かもめの飛び交う美しい浜辺、
 のどかな春の海の情景を一度作曲者の心の中にとかし込んで、
 そして作曲者自身の心の中にある筆でこの曲を弾きながら、だんだん興が乗ってきて
 そこから様々なインプロビゼィションが湧き出してくるようなものとして見たようである。
 宮城道雄が生きていてこの曲を聴いたなら、何と思うだろう。
 『これは私の春の海とは大分ちがう、しかし、この中に私の姿がはっきりと見える。
 いや、これはやはり「春の海」である』と言ってもらえれば本当に嬉しいのだが……。
 と作曲者は願っている。





 99. 春の恵み   久本玄智 作曲

 第三楽章よりなり 第一楽章 美はしき朝、
 第二楽章 春雨の夜、第三楽章 快速調  時代・昭和6年4月





 99−1. 春の宵   水野千鶴 作曲

 [歌詞]
 ほのあたたかな 春の宵
 今を盛りの桜の花は 夜目にもあでやかに その姿を浮かび上がらせ
 馥郁とした緑葉の香りにつつまれて 夜の帷は紗の絹をかけたよう
 よぎる思いも心おだやかに 春の宵はすぎてまいります。
 どれ程 時が過ぎた頃でしょうか。
 先程来 そよぎ始めた風は急に桜の花を舞い散らしてしまうかと思う程
 ふりしきる花びらに黒髪の女人は ふと待ち人の心に思いをはせます。
 いっときの春の嵐は恋の不安に心を乱し
 艶なる 宵は過ぎて まいります。





 100. 晩秋三景   宮田耕八郎 作曲

 [第一景] 積草と笛を吹く少年
 少年が一人。足元には、刈り取った後の稲の切り株がポツポツと並んでいます。
 少年が無心に吹く笛の調べは、土や切り株や藁をねぎらうかのように
 優しく染みとおっていきます。背よりも高い積み藁がじっと聞いています。
 [第二景] 宴(うたげ)
 刈り入れのあとの祭りの夜。大人たちの集いは、酒や自慢話や歌やらで、
 遅くまで賑わっています。
 [第三景] 夕陽と子供たち
 赤く大きな夕陽を背に、子供たちが家に帰って行きます。





 101. 光と影     吉崎克彦 作曲

 尺八の音色で「絃歌」の中間部の哀愁フレーズを聴いてみたく、
 尺八・17絃の二重奏としてリメイクした作品です。
 原曲は、17絃二重奏曲「絃歌」であるが、楽器(尺八)の個性が、
 自ずと異なるフレーズを生み、一つの作品としてまとまっていく。
 編曲の形でありながらも、また新たな感情の高鳴りを覚え、
 絃歌は、陰影のある二重奏「光と影」として生まれ変わった。





 101‐1. 光のしづく  吉崎克彦 作曲

 やわらかな日差しが、まるでしずくの様な清涼感をもって、
 体にしたたる。
 それは子供に対する愛情にも似た穏やかさで、安らぎに満ちた
 「光」輝くひと時であった
 この曲の最大のモチーフはメロディにあるのではなく、
 透明感の強い手法「ハーモニックス」にあります。
 絃の中央(弾く側)を左手の薬指に軽くのせ、
 余韻を消さないように注意してください。
 曲全体は二章に分かれていますが、そのまま連続して演奏します。





 101-2. ヒゴタイ   安武慶吉 作曲

 ヒゴタイとはキク科の植物です。大陸から江戸時代に輸入されました。
 ピンポン玉ほどの球状で、薄紫の可愛い花です。今は熊本県阿蘇郡の
 『ヒゴタイ公園』で8〜9月に見ることが出来ます。
 作曲者はヒゴタイの花に触れ、球状の形の中に小さな花が咲き誇り、
 逞しさと神秘性を感じたようです。

 曲の構成は箏・17絃・三絃・尺八の四重奏です。曲の冒頭では
 シンコペーションを交えたアップテンポで花の逞しさ勢いを表して
 います。中間部はゆっくりとした三拍子で短い花の命を哀れむような
 旋律となっています。続く尺八のソロでは、花が厳しい自然に耐えつつ
 健気に生きている姿、さらに神秘性や花に対する追憶を表しています。
 曲の終わりは早いテンポの四拍子でヒゴタイの強い生命力を表して
 います。

 〔編成〕:箏・十七絃・三絃・尺八





 101-3. ひさかたの   香登みのる 作曲

 “ひさかたの”は光・天・空・雨にかかる枕詞です。紀の友則の和歌が有名です。
     
  ひさかたの 光のどけき 春の日に
          しづ心なく 花の散るらむ

 夕焼けの空に宵の明星が煌めき、夜の帳(とばり)がおり始める。静寂はゆっくりと
 拡がりながら、人を深い想いの中にいざなう…。

 やがて空は白みはじめ、ちいさな隙間からは陽の光。しかしそれも束の間。晴天の霹靂
 によってあたりは一変し、稲光はさらなる轟きを呼び、風雨と共に野を疾走する。

 ようやく嵐は遠のいて、ふたたび訪れたのどかな昼下がり。
 野うさぎが顔を出し、草原を飛び跳ねている。
 生き物たちのいつもの営みが戻ってきたようです。
 おだやかに時は流れ、陽はまた西に沈んでゆく。

 〔編成〕:箏・十七絃・尺八





 102. 飛 翔    宮下 伸 作曲

 天空を飛翔するが如く、大きな理想に夢を持って進む、希望に溢れた人々。
 その努力する人間の悲哀と喜びを、心に響く糸竹の音に託して作曲した。
 三章からなる器楽曲です。一章は、細かく技巧的な筝のリズムにのって、
 尺八がゆったりと、叙情的に旋律を唄います。 二章は筝と尺八の静かな語らい。
 三章は、テンポを速め、筝・尺八がリズミックに飛翔する喜びを持って発展し、
 終わりの部分でディミスエンドして、静かに曲を閉じます。





 103. HITO−TOSE 〜春夏秋冬〜    水野利彦 作曲

  季節感を表現した作品は、これまでにも何曲が書いていますが、今回は四季折々の
 季節感というより、季節の移り変わりと、その心象現象をテーマに、まとめてみました。
 第一章は春から夏への移り変わり。
 まぶしい陽光、鳥にさえずり、薫風の中で、パステルカラーの風景が、一日一日濃く、
 原色に近づいてゆく。生命力にあふれている。
 第二章は、秋から冬へ。
 収穫の祭りから、大地はしばらくの間休息に入る。木枯らし、吹雪など自然は手厳しいが
 その中で着実に新しい命が息づいている。箏・三絃・17絃・尺八の四色の楽器で、
 四季を彩ってみたつもりですが、とくに、三絃の力動的な音色感に季節の移ろう感覚を
 託してみました。 





  103-1  火の島    唯是震一 作曲

 作曲者が1966年の夏に過ごしていたアメリカ・ニューヨーク市郊外にある、
 細長い孤島、火の島(ファイアー アイランド)の印象を三楽章とした
 尺八・筝二重奏曲である。
  T楽章 火祭り  燃える火を囲み、踊り狂う人々。
  U楽章 霊 歌  筝は筝爪を使わずに演奏します。尺八はブルース風に演奏します。
  V楽章 渡し舟  島に渡るポンポン蒸気船
 大西洋岸にあるこの島は、夕映えに火が燃えているように眺められるので火の島と言われている。 

〔編成〕筝、尺八
〔演奏者の感想〕転調が多く難しい曲です。





 103−2 風 雲    菊重精峰 作曲

  千年に一度の大きな節目である2000年は、
 十二支では想像上の動物である竜の年にあたります。 
 竜は風を得て昇天し、雲を起こして雨を降らすと言われており、
 今にも大きな変動が起きそうな差し迫った情勢であることを
 『風雲急を告げる』という言葉で表したりします。
 この曲はその竜にちなみ『風雲』というタイトルにしました。
 新世紀に向かって、この邦楽界が益々発展してほしいという願いを込め、
 古典的な風合いも残しながら自由な発想でこの曲を作り上げました。

〔編成〕三絃、尺八
〔演奏者の感想〕曲想を見つけるのが難しいが、三絃の勉強になる良い曲である。





 104. 富 士     大月宗明 作曲

 第一筝、第二筝、尺八による三重奏曲として作曲。
 編曲としては三絃、十七絃、打楽器、洋楽器が加わる。  
 昭和46年作曲 演奏 約9分半





 105. 不思議見聞録       吉崎克彦 作曲

 作曲者と『不思議』との遭遇。
 それは、盛岡の風土記に綴られた『不思議見聞録』。
 一つ一つの『それ』は、私の内に異なる色彩を見せてくれた。
 色彩は、音になり、キャンパスを譜面に変える。
 『赤』の章、『緑』の章、『青』の章と秋の山々を彩る紅葉に、
 譜面はいつのまにか、音でうめられていた。
 終止符を書き終えたとき、赤・緑・青の章文字は、この曲の中には残されていなかった。
 青は緑であってもいいし、緑は赤であってもいい。他のどんな色でもいい。
 心に浮かぶ『色』は、自由な発想の中でこそ楽しい……。





 106. 二つの歌    水野利彦 作曲

 第一楽章 地中海の風
 コバルトブルーの海上を吹き抜ける風は、過去から未来への時の翼のようだ。
 光りと影が別世界であるようなこの地中海で、海鳥の羽ばたきが色を添えている。
 第二楽章 スペインの夜
 夜のスペインは、異文化の混ざり合った激しい血の匂いを感じさせる。
 酒場から聞こえてくる激しいギターの音と手拍子のリズム。
 哀愁帯びた歌声がそれとマッチしてやけに郷愁を誘う。1992年6月作曲





106-1. 民謡組曲『ふたなしま』 江戸信吾作曲


『ふたなしま』とは四国の古い呼び名です。
この曲は四国の民謡『金比羅』『よさこい節』『阿波踊り』の三曲を尺八・三絃・箏2面の
五重奏にしたものです。ノリの良い『金比羅』と『阿波踊り』と情緒のある『よさこい』の
雰囲気を大事にしました。

曲中の尺八のカデンツァは『伊予節』をモチーフに作曲されています。





 107. 二つの田園詩   長沢勝俊 作曲

 日本の美しい自然と、これに深いかかわりをもちながら生きてきた人々の気持ちを、
 三つの楽器に託してえがいたものです。
 一つは自然に対する憧れを靜で表し、一つは動で表しています。





 108. 冬 鳥    山本邦山 作曲

 秋頃に北方から渡ってきて越冬し、春になると再び去って、寒い国をさがし求める鳥、
 ときには淋しそうに飛ぶ鳥、群れを作って飛ぶ鳥、四季を持つ地方にとって、
 常に静かで淋しそうな冬鳥の情景を表現した。





 108-01. 冬の一日・パート2   長沢勝俊作曲

 子供の目から見た楽しい冬の一日の思い出を、
 笛・尺八・箏・17絃・打楽器の編成の合奏にのせて描かれた曲です。
 親しみやすいメロディーとユニークなリズムが邦楽器の独特な音色と一体になって、
 楽しい冬の一日を奏でていきます。





 108-1    碧      川村泰山 作曲


 無限の広がりを見せるあおい空。深く神秘的な緑の海。
 大自然を代表する空と海の優しさと力強さを、尺八・筝・17絃による三重奏として綴った。





 109. ブルー・レジェンド(碧の伝説)  水川寿也 作曲

 この作品は作曲者の処女作品です。
 生命の起源と言われる海の青とこれから生み出していく作品が、
 やがては伝説のようになって欲しいとの気持ちをこめたものだそうです。
 完成時には『望郷』というタイトルを付けられていました。
 それは人それぞれに好きなイメージを膨らませていただければと考えたからです。
 分かり易い構成になっていますので、自由な発想で聴いて下さい。





 109−1.     フロスト フラワー    江戸信吾 作曲

 雪深い北国には、はかりしれない厳しい冬がくる。
 そんな中に訪れる、つかの間の輝き、"フロストフラワー"。
 それは、真冬の寒い朝、凍った空気中の水蒸気が朝日に照らされて、
 キラキラと光り輝くことをいう。
 凍てつく寒さの中でしか、見ることの出来ない光と氷の贈り物を
 筝二面・十七絃・尺八の四重奏にしてみました。
 そのきらめきを音にかえ、聞く人に伝えたい。
                              2001年 作曲





109-2.   フローラ(花 神)  吉崎 克彦  作曲
  
 筝・十七絃・尺八三重奏曲
    
 吹き上げる風(尺八)に舞う花びら(筝)
     あでやかに咲きほこる大輪の花たち
     花の色は移りにけり
     悪戯にとは花火のごとし
     花の宴(十七絃)は夏の夜の夢
     ああ、花の神フローラよ、
     ここに舞い降りたまえ

「フローラ」が作曲者の脳裏に焼きついたのは、フィレンツェの美術館
でのことでした。そのインパクトは衝撃的で、以来、曲を書くたびに
「フローラ」は気になっていたそうです。
 『何故に』の心象は、多くを語らずということではありますが、今回、
この三重奏曲のタイトルに「フローラ」を命名することとしました。
 演奏者の曲への解釈と題名とが一致しなければならないか否かという
こともありますが、ほんの少し、「フローラ」を心に留めていただき、
「その香り」の零(こぼ)れる演奏をしていただければ・・・・と作曲者は願います。

〔編成〕:箏・十七絃・尺八





 110. 編曲長唄 老 松        野村正峰 作曲

 原曲の長唄『老松』は、文政三年(1820年)に四代目 杵屋六三郎
 (きねやろくさぶろう)が作曲した物で、芝居とは関係なく、
 母のますの八十才の祝いとして「ます」を「まつ」に通わせて
 撰名したものと伝えられています。
 原曲は謡曲の同名の曲を長唄化したものと言えますが、謡曲の他に、
 秦の始皇帝が松の樹陰に雨宿りをした際、松に太夫の位を贈ったという故事や、
 松の位からおいらん花魁の階級の松の位に結びつけて、
 郭(くるわ)情緒をうたう歌詞などが、脈絡なく続いています。
 その為、変化に富むという曲想の面白さもあり、原曲のご祝儀の気分とあわせ、
 合奏練習曲としてのねらいも含めて、芝居の下座音楽などにもよく使われる
 サワリの部分を抜粋し、箏群に編曲してみました。 
 当然、歌う曲としての編曲ではありませんが、三絃二上りには「神舞の合方」
 といって始皇帝の舞う厳粛荘重な部分、三下りになっては郭の松の太夫が踊る
 軽快な手踊りの雰囲気の部分があり、演奏にも原曲の内容に応じた工夫がある曲です。





 111. 編曲 民謡調     水野利彦 作曲

 民謡のモチ−フは、従来、様々なジャンルの音楽に取り入れられ、親しまれています。
 この曲は「ソ−ラン節」「追分」「八木節」というポピュラ−な三曲を、
 序破急の構成でアレンジしたものである。
 8ビ−トに乗った現代的な感覚で編曲してありますので、年配の方はもちろん、
 若い人も楽しめるようになっています。
 打ちもの等を加えたり、大編成で合奏したり、楽しく演奏できる曲です。





 111−1.     弁才天めぐり   野村正峰 作曲

 日本では古来福運、ことに財運を招く神として、「お稲荷さん」とか「弁天さん」が信仰されています。
 現世利益を願うのは人の世の常、信仰する人の願いを叶えてくださるのは、たいへん有り難いことです。
 この曲では、日本三大弁天とも称される、神奈川県の「江の島」、滋賀県の琵琶湖北辺の
 「竹生島」、広島県の「厳島」の弁天さまにスポットをあて、それぞれの弁天さまに参詣した
 印象を簡潔な詩にまとめ、歌曲として発表してみました。
 滋賀県のびわ湖放送の企画したものでもあります。
 「弁天」とは、もともと印度の「サラスヴァティ」という河の女神が、
 日本に伝わって訳語としてはめられたものですが、印度古来の聖典には
 「一切世間の母、富と食と子孫をもたらす女神」と説かれています。
 江の島の弁天様は裸身に琵琶を抱えた、いかにもやさしい、美しい姿で、
 江戸時代から歌舞伎、音曲にたずさわる人の信仰が篤かったといわれれます。
 この形の弁天さまは「大日経疎」という密教系の経典に説かれる姿です。
 竹生島の弁天さまは、六十年に一度のご開帳ということで、そのお姿は
 つまびらかではありませんが、「金光最勝王経」の出典の、弓、矢、刀、斧など
 八種の武器を八本の手に持って厳し形ということです。
 平家隆盛の運をもたらしたといわれる厳島神社では、弁天様は、神社の管理される
 神様ということで、神社の境内に隣接したお寺に祭られていますが、
 そのお姿は秘仏として公開されることがありません。
 それぞれの弁天様にまつわる伝承の一端を詩に紹介しているのですが、詳しくは
 何時の日かこれらの地に参詣し、たずねていただきたいものです。
 弁天さまは「弁財天」と書かれることが多いのですが、これは凡俗の財への執着が
 才を財におきかえてしまったものでしょう。本来は前にも述べた河の女神であると
 ともに、言語すなわち文芸守護の神という性格を併せ持つ神なので、「弁才天」
 というのが正しいのだそうです。
                            1990年11月 作曲





111-21.  変 容   吉崎克彦作曲

箏はロンド的に『六段』の一段・三段・六段がそのまま用いられ
ながらも、中間部では原曲から離れていきます。箏・17絃・尺八に
ソロ部分があり、その解釈については演奏者の個性溢れる表現に
作曲者は期待しているようです。『六段』から生まれた変容の姿を
お楽しみください。





111-11  尺八二重奏 遍路  杵屋正邦作曲

作曲者、杵屋正邦は大正三年に生まれました。創作活動を中心に
活躍された、現代邦楽の代表的な作曲家です。尺八のための作品も
数多く、この曲は昭和54年に作られました。尺八古典本曲の技法を
現代的な音楽形式の中に取り入れた作品で、現代版・虚無僧尺八と
云えるかも知れません。それでは鈴の音と尺八の響きを道案内に
遍路の旅にご同行ください。

[編成] 尺八T・尺八U・鈴
[演奏者の感想] 





111-01. 萌 春   長沢勝俊作曲

 萌えいずる春を一尺六寸管の尺八と箏に託して瑞瑞しく描かれた曲です。
四季の変化に富んだ日本の春は、心和む風情を持っています。
そして新しい生命の誕生と躍動が、生きていることの喜びを私たちに強く感じさせます。
曲は尺八のカデンツァ風の尺八から始まり、箏がこれを受け継ぎます。
全体を通じて尺八は唄うことに主眼を置き、
箏は三和音を多用し独自の雰囲気を持ちつつ、尺八の唄と調和するように作られています。





111−2.  北 斗    川村泰山作曲

北の夜空に輝く北斗七星。中国の「ひしゃく」から名付けられた「北斗」の形は
少しずつ変化し続けている。
人生や人類の歴史などと言うちっぽけな物差しでは測れないゆっくりとした変化なのだ。
キラキラと輝く美しい北斗を仰いでいると壮大な宇宙の神秘に心を震わされる。
星(尺八群)と人(十七絃)とのドラマティックな関係をこの曲に託した。
曲の中程の十七絃のカデンツと、尺八の減三和音に乗って演奏される
十七絃のアドリブは演奏者にとって、楽しみでもあり、苦しみでもある部分です。





 112. 北斗幻想     水野利彦 作曲

 (a)雪原にて……北国の夜、降りしきる雪、吹き付ける風、大地から聞こえる太古の声。
  (b)北斗の祈り……いつしか吹雪もやみ、北空に宝石のように星が煌めく。
  (c)光の祭典……満天の星空、一面の銀世界 松明は赤々と燃え、
   生命のうたが雪原に響きわたる。





 112-1 星    筑紫歌都子作曲

 この曲は、星の幻想ともいうべきものです。
 多分にロマンチックな香りもたたえております。
 夕空に一つ二つとゆらめき輝く星から始まり、空いちめんの星となって
 流れ星も飛び交う賑やかな夜空となります。
 天の川のほとりの牧童と織姫の物語にも思いをはせるなど…
 しばらく天上の幻想にふけりますが、
 やがて、東の空も白んできて名残の星ひとつになります。





 113. 星空への想い     菊重精峰 作曲

 人間は無限大の可能性を持ち合わせたすばらしい生命体である。
 その命の尊さ、すばらしさを二つの星にたとえ曲にしてみました。
 <一 章>  シャイニング・スター (輝く星)
 重々しく温かみのある17絃のソロより静かに曲が始まり主題へとつながる。
 途中短い箏ソロを経て主題に戻り二章へとつながる。
 <二 章>   シューティング・スター(流れ星) 
 箏のソロから始まり、尺八がそのあとから加わりながら満天の星を
 和声的短音階を用いて憂いを表現しつつ、最後はタンゴ風に曲をしめくくってあります。





113-1. 星空のバラード  三上澄山作曲

闇の向こうに広がる果てしない神秘。
闇に散りばめられた無数の星のきらめき。
星空に魅せられるのは今も昔も変わりありません。
人知の及ばない神秘的な美しさは、
人を敬虔な気持ちにさせ、
夢や願いの対象になってきました。
この曲は、時を超えて果てしなく広がる星空への
想いを唄ったものです。





 114.	星月夜





 115. 北海民謡調    宮城道雄 作曲                                                
                                                                               
 北海道の郷土色豊かに、そして舞踏的なリズムのそうらん節と、
 庶民的な哀愁を底に深く湛えている追分け節の主題の節を変奏曲風に、
 また自由幻想風に、美しいメロディ−と合奏を聴かせながら、抒情的な楽想を展開し、
 華やかなコーダーで全体を引き締め、北海道情調を満喫させてくれます。





 116. 炎     水野利彦 作曲

 日本には炎が主役の行事が幾つかあります。
 新しい年が明けると奈良の若草山の山焼き、小正月の火祭り『どんと』、
 夏には富士の火祭りなど、人々は色んな思いを炎に託します。
 燃える炎、交錯する影。そんな様子をオリエンタルな音階と
 激しいリズムが様々なイメージを浮かび上がらせていきます。


 現代曲は各々の作曲者の解説から引用させて頂きました。
 また、古曲は「山田・生田流 筝唄全解 今井道郎著 武蔵野書院刊」を
 参考にさせて頂きました。





 116−1. ホワイト・フォレスト  水川寿也 作曲

 十七弦と二人の尺八奏者という変則的な編成です。
 五音階中心に作曲したせいでしょうか、なにやらアンデスの香りもしてきます。
 森の中をさわやかに駆け抜ける風のイメージがしませんか?
 エンディングに向かって、かなり風速が上がりますが・・・